1.はじめに
レポートを書くにあたって、あらかじめ【職場ストレスとうつ病】【アスベストと中皮腫】のビデオを見た。その二つのうち【職場ストレスとうつ病】に、より興味を持った。数年前から“うつ”という言葉が一般に知られだし、正しい意味を知らず専門知識も当然ないが、まわりでも皆が気軽に“うつ”や“プチうつ”と使うようになった。
そのうち学校や職場でのストレスによってうつ病になり、学校や職場に行けなくなり、重症な場合は自殺を選ぶということが社会現象のようになった。その事実、任意で選んだキーワードから検索した論文、先に述べたビデオの内容をふまえて考察した。
2.選んだキーワード
【うつ病】【ストレッサー】
3.選んだ論文の内容の概要
【ストレス社会と疲労 橋本 信也】
一般社会におけるストレスの現状は、平成10年の国民生活基礎調査によると、約40〜50%の成人(25〜64歳)が、日常生活においてストレスを感じており、年齢別では男女ともに35〜44歳の年齢層が最も多く、各年齢層とも女性の方が男性よりも余計にストレスを感じているという。ストレスの内訳は、男性は各年齢層とも「仕事に関すること」が第1位を占めている。一方女性は年齢層によって第1位が異なっており、25〜34歳では「仕事」、35〜44歳では「子供の教育」、45〜64歳では「自分の健康・病気」と変わっていく。また男女とも25〜44歳の第2位は「収入・家計・借金」といった生活上の経済面がストレスの原因となっているし、45歳以上になると男性は「自分の健康・病気」、女性は「老後の収入・生活」となっている。仕事に関するストレスは男性では全年齢層で、女性では若年者層で多い。これは職業性ストレスが働く社会人の健康状態の大きな影響を与えていることを示している。14年労働者健康状況調査によると、自分の仕事や職業上の生活に関して「強い不安・悩み・ストレスがある」とする労働者は、実に61.5%に及んでいて、その内容は多いものから「人間関係」「仕事量が多い」「仕事内容」「会社の将来」「雇用の安定性」である。これらは当時の現金給与総額の減少・残業の増加・常用雇用の減少など、経済界の不景気を物語っており、加えて中高年男性の自殺者の増加にも関連し、社会問題となっている。
ストレスという言葉はHans Selye(1935年)によって始めて論文に記載された。それより以前の19世紀の終わりごろに、Claude Bernard(1871~1945)は、生体は外的刺激に対して内部環境を一定に保つ、内部環境の恒常性という概念を唱えた。20世紀に入って、Walter B.Cannon(1871~1945)は、生体に不快な浸襲性刺激が加わると、交感神経―副腎髄質系が作動してカテコールアミンが分泌され、それによって外界に対して顕著な反応を示すことができることを示し、緊急反応系と呼んだ。またSelyeは、動物実験により生体にとって有害な刺激が加わると起こる非特異的な反応、すなわち@副腎の肥大 A胸腺・リンパ節の委縮 B胃・十二指腸潰瘍 を見出し、これをストレスの三大徴候と呼んだ。そしてこういった反応を汎適応性症候群、あるいは一般適応症候群と定義した。その後ストレスとは生体に加わった侵襲による歪みを生じる反応を意味し、ストレスを起こす要因をストレッサーと呼んだ。
ストレスによって起こる病態をストレス関連疾患と定義した場合、3群に分類すると臨床上便利であると著者は述べている。
第@群;器質的疾患が存在し、これがストレスによって影響を受ける場合。いわ ゆる心身症の病態で、気管支喘息・高血圧・胃十二指腸潰瘍などよく知られている病態。
第A群;ストレス、特に社会心理的因子が明らかに引き金となって発症したと思われる身体症状・精神症状を呈する病態。これは激しいだるさ・抑うつ・睡眠障害などが多い。
第B群;明らかな心理的因子が特定できない場合、つまりストレスが問診から見出せなかったり、患者本人の意識下にあったりする場合。
著者は、ストレス関連疾患を上のように分類することは治療上でも重要であり、実際には症例によって上の@~B群の治療法・対処法を上手に組み合わせることが必要だと述べている。ストレスを強く感じる人は、余りにも組織や集団との一体感に意義を感じ、それが職場に対する忠誠・義務・服従などでがんじがらめとなっているのかもしれない。
【心療内科からみた職場ストレス 芦原 睦・大平 泰子・佐田 彰見】
この論文は、産業医からの紹介によって@:中部労災病院心療内科を受診した症例および、A:中部労災病院心療内科を受診した職場ストレス症例を対象として背景調査を行い、心療内科の立場からみた職場ストレスについて検討されたものだ。
《@:中部労災病院心療内科を受診した症例》
目的は、症例の受診の背景などについて討論し、受診や対応過程における問題点の把握および心療内科と産業医との望ましい連携のあり方を模索することだ。なぜなら、産業医から紹介のあった症例に必ずしも疾病性があるとは限らない上に、ストレス関連疾患であるか否かも明確でないまま紹介されてくる症例が多いのが現状であるのにも関わらず、休職や復職に関する対応に配慮するには産業医と臨床の場との連携が不可欠であるからだ。
調査対象は、1990年6月〜2002年11月までの12年6ヶ月間に、常勤および嘱託産業医からの紹介によって中部労災病院心療内科を受診した136例である。性別内訳は男性110例、女性26例で、平均年齢は男性36.4±10.2歳、女性は28.8歳±8.9歳である。方法は初診時に症例の学歴・職種・受診経緯などの背景を面接により聴取し、臨床的分析が行なわれた。
結果として、その調査対象の産業医受診までの経緯は、自ら産業医を訪れた症例が62例(45.6%)・定期健診によって産業医受診を勧められた症例が34%(25.0%)・上司の勧めによるものが13例(9.6%)であり、平均 病期間はおのおの30.2ヶ月・12.8ヶ月・8.5ヶ月だった(その他、知人からの紹介が1例・不明が26例)。その後、産業医受診から中部労災病院診療内科への紹介までの産業医の対応は、すぐに紹介となった症例が104例(76.5%)、産業医自らが治療にあたった後に紹介となった症例が26例(19.1%)、いったん他院へ紹介された後改めて紹介となった症例が6例(4.4%)であった。そして、中部労災病院心療内科受診時の診断は、うつ病圏が61例(44.9%)で最も多く、心身症圏33例(24.3%)、神経症圏28例(20.6%)、その他が14例(10.3%)だった。また対象症例の80.9%が男性であり、うつ病圏では男性が9割を占めていた。また男性のほうが女性よりも年齢が高かった。
著者の考察によると、1990〜1998年の全受診者を検討すると、女性の方が多く、また心身症圏が最多であったことと今回の調査を対比すると、今回の調査で男性症例が多いこと・うつ病圏が多いことは、産業領域のメンタルヘルスの問題や事業所の症例の中核が見えてくる。また上司の勧めで受診した場合の平均罹病期間が最短であったことから、ラインによる対応が早期発見につながると考えられる。しかしこの症例は少数である。一方自らの意思で受診した場合の罹病期間が非常に長期に及ぶことから、受診の要否を個人に委ねることは危険性があると思われる。そして、産業医は病初期において自ら治療しうる症例か紹介すべき症例かを早期にかつ的確に判断することが求められる。
この調査を通して、いまだにストレス関連疾患やメンタルヘルスの問題の早期発見システムが確立されていない事業所が多いことが把握できる。早期発見システムの確立、産業医と臨床医の相互理解や役割分を明確にすることが必要だと思われる。
《A:中部労災病院心療内科を受診した職場ストレス症例》
目的は、職場のストレッサーと発症との関連が推定できる症例を抽出し、産業医からの紹介か否かに関わらず、職場のストレッサーがストレス関連疾患の発症に関与していると思われる症例について検討することだ。
対象は1998年4月〜2003年3月までの5年間に中部労災病院心療内科の中で、職場ストレス症例の定義に該当すると判断した236例である。そのうち男性176例、女性60例で年齢は男性38.3±9.7歳、女性30.5±8.4歳だった。
結果として、男性では配偶者あり、女性では配偶者なしの症例が多くみられた。また国勢調査に従って分類すると、専門的・技術的職業68例、事務47例、販売44例、技術工・採掘・製造・建設作業者および労務作業者42例、管理職20例、サービス業9例、運輸・通信6例であった。職場ストレス症例のストレッサーの内容をみてみると、仕事の質に起因するものが最も多く、次いで質・量ともに起因するとしたものだった。男性ではこれがストレス関連疾患の発病に影響している場合が多く、女性ではこれに加えて職場の人間関係によるものとが同程度だった。診断はすべての職種においてうつ病圏が最も多く、特に管理職従事者においてはうつ病圏の割合が最も高い結果がでた。
著者の考察によると、職場ストレス疾患は質的な負担・中でも異動や昇進などの質的の変化に直面した際に発症するリスクが高まることを示唆している。また今回の結果から女性は男性よりも人間関係の要因をストレッサーと感じることが多いと推察される。また1990年6月〜1998年3月の期間を対象に行われた前回調査では心身症圏が最も多く、次いでうつ病圏だった。今回の調査からうつ病圏の著しい増加、
さらにはうつ病患者の頻度の上昇が明らかにわかる。事業所のメンタルヘルス対策には、とくにこのうつ病の対策に力点を置き、早期発見・再予防対策を推進していくことが重要だ。
4.選んだ論文の内容・ビデオの内容から自分自身で考えたことを、将来医師になる目で捉えた考察
論文・ビデオから分かるように、うつ病は現代社会の象徴のようなものだ。だからうつ病を個人の問題として捉えるだけでなく、社会の問題として捉えるべきだろう。社会全体がうつ病に対する理解やうつ病からの復帰の支援を積極的に示すことが必要だと思う。また事業所がそれを従業員にアピールすることや、従業員の仕事に関する悩みを事業所の上の立場の人が知ることのできるシステムを独自に構築することなど、働きやすい職場作りも必要だ。元来、うつ病はまじめな努力家が罹りやすい病気である。そうすることによって事業所は生産性の向上につながるだろう。
そして私の漠然とした考えだが、地域に密着した、“かかりつけ医”の存在が大事だと思う。医師を志し医学を学ぶ私でも精神科や心療内科といわれると抵抗を感じてしまうのだから、医学に携わっていない人もきっと抵抗があるだろう。子供のころから診てもらっている“かかりつけ医”になら相談しやすいだろうし、気負わずに周りの目を気にせずに行けるだろう。そして相談を受けた“かかりつけ医”は少しの変化であっても気付いたことがあれば専門家に紹介するという、地域と専門家との連携のシステムが必要なのではないかと思う。
5.おわりに
うつ病になるか否かは紙一重だ。うつ病に対する理解や正しい知識を世間に浸透させると共に、せめて家族内でのコミュニケーションが復活すればいいと思う。
また、うつ病は忙しく働く人だけに起きる病のようだが、ホスピスケアを受ける立場の人にも現れる病だ。ホスピスケアとは、単に身体症状のコントロールだけでなく、精神的に支える医療である。その患者さんのこれまで歩んできた歴史を尊重し、人間理解のある対応・安易な励ましはさけ、理解のある態度で接することが必要だろう。